2022年8月

日本では低金利政策が20年以上も続いており、投資対象に債券を入れる場合には、日本債券ではなく、金利の高い海外債券を資産配分の一部として紹介していました。

20年以上前ですが1998年(平成10年)バブル崩壊後最悪の経済状況となる中で、大規模な財政政策が取られて、金融政策においても緩和が求められることになり、1999年2月、日本銀行は短期金利の指標である無担保コール翌日物金利を史上最低の0.15%に誘導することを決定したのです。

 

しかし本年度は諸物価の上昇に伴い金利が上昇しつつあり、長年続いた低金利が変わる可能性もあります。

具体的には、今月から、東京電力、九州電力、中部電力、北海道電力の4社の電力料金が値上がりとなり、東京電力の場合、1年前と比べて2,158円の上昇となります。

また食品をはじめ生活に身近な商品やサービスの値上げラッシュも続いています。

原材料費の高騰や原油高、円安の進行でコストが上昇しているためですが、主要飲食料品メーカーの値上げは8月だけで2431品目に上り。10月には6305品目に拡大する見込みで、家計の負担感はさらに増しそうです。(読売新聞8月2日)

一方で、収入(平均給与)ですが、日本の平均給与は韓国の9割であり、アメリカの半分強となっています。

2018年の日本の平均給与は433万円でした。しかし、バブル崩壊直後の1992年は472万円。四半世紀前より40万円近くも平均給与が下がっているのです(ともに1年を通じて勤務した平均給与)(厚生労働省)

このような状況が直ぐに変わるとは思えませんが、今後の金利上昇を考慮して、日本債券の投資についてご紹介します。

 

債券は、発行時に満期までの期間、利息の条件(利率)と支払日が定められますが、投資する場合に最も重要なのは、定められた利息が支払日に支払われるのか、満期の日に額面金額が支払われるのかです。

発行体が業績不振となり、債券の利息や額面金額が約束通りに支払われないことを債務不履行(デフォルト)と言いますが、これを判断する方法として「格付」があります。

将来を保証するものではありませんが、現時点で、その発行体が優良なのか、危険状態なのかを判断する目安として使います。

格付

日本では「日本格付研究所」「格付投資情報センター」、世界では、「Moody’s」「S&P」「Fitch Ratings」の付与する格付の信用度が高く、最も信用度が高いものをAAAとし、信用度が下がるとAA→A→BBB→BB→B→CCC→CC→C(表現は各社で多少変わりますが、同じような表現で分かりやすくなっています)

日本では、BBBよりも下の企業は格付そのものを取得していません。

BB以下の債券をジャンク債と呼び、利率が高く利息は多いものの債務不履行となる可能性も高く、日本国内では発行後にジャンク債になった例はあるものの、最初からジャンク債として発行された例はありません。

日本国債も投資対象なので、日本国も格付されており現時点はAです。

ドイツ、オランダ、スイス等のAAAと比較すると、信用力は低くなっており、韓国AA,香港AAよりも低いのは、日本国債の発行残高が約1,000兆円もあるからです。

株式会社では、トヨタはAAA、地方銀行はAが多く、信用力が高ければ安心感はあります。あくまでも現時点での目安ですから、10年後や20年後の償還までの期間を約束するものではありませんが、投資する際の重要な指標となります。

日本では、債券の発行体が破綻して利息や投資金額が戻ってこなかった事例は極めて少なく、全国展開していた総合スーパーの(株)ニチイ(その後、マイカル)があります。

 

株式の場合は、有名な会社であれば証券取引所に上場していることが多く、上場できるのは、厳しい上場基準に合格した会社のみとなっており、株価は情報端末で随時知ることができ、売買も簡単にできます。

それでも経営破綻した会社は沢山ありますから、株式の発行体である会社が信頼できるのか十分に吟味します。

例えば2010年に経営破綻したJAL(日本航空)の株式保有者は損失を被るものの株価下落時に売却しましたが、結果として上場廃止となり株式は紙屑となりました。

その後、公的資金が投入され再建されましたが。

また上場前の未公開株の勧誘は多いのですが、原則として買うべきではありません。

       

債券の場合、我々に身近なのは日本国債で1万円から購入することができます。

国債は、法律で定められた発行根拠に基づいて財務省が管轄しています。

その他にも地方自治体が発行する東京都債、福岡県債などもありますし、公団住宅で有名なUR都市機構の都市再生債券、株式会社が発行するトヨタ社債、SBI債など多種多様な債券を購入することができます。

しかし債券の場合には、取引所での取引ではなく、販売した証券会社との相対取引となり、債券価格も上場株式のように簡単に知ることはできません。

また上場株式の場合は、いつでも売買することができますが債券は販売した証券会社の取引条件で売買することになりますので、何となく面倒だなと感じる人もいます。

それでも債券投資をお勧めするのは、定期的に利息を受け取ることができ、満期時に投資金額が戻ってきますから、安定運用として優れているからです。

例えば本年5月に丸井グループが発行した社債は、満期までの期間は1年、利率1%

7月発行のMUFG(三菱UFJファイナンシャル・グループ)は、期間10年、利率0.904%

8月発行予定のSBIホールディングスは、期間4年、利率は0.8%~1.4%(仮条件)

など、色々と選ぶことができます。

 

債券は途中で売却することもできますが、市場金利が上昇した場合には、額面金額よりも安い価格で売却することになります。(市場金利が下落した場合には、額面金額よりも高い価格で売却)

例えば利率が1%の債券を、10万円購入した場合、1年間に千円の利息を受け取ります。(税金を考慮しない)

その後、市場金利が2%や3%に上がった場合、新たな市場金利で発行される債券に投資した方が有利になりますので、利率1%の債券は価格が低下します。

満期まで保有すれば投資金額全額が戻ってきますが、途中売却する場合には、その時点の市場金利によって債券価格が変動するのです。

市場金利が下がった場合は逆の原理が働きます。このような仕組みで債券価格と市場金利は一方が上がれば、もう一方は下がるという関係で連動しています。

このような事態を避けるために、利息を市場金利に連動させる変動金利という債券もあります。

具体的例として日本国債は3年満期、5年満期、10年満期の3種類が発行されていますが、10年満期は、最低利率を0.05%として、市場金利が上昇した場合にはその時の市場金利に合わせて利率が上昇します。(3年満期、5年満期は固定金利)

10年満期国債の人気が高い理由は、次の4つと思われます。

  • 預金の金利よりも高い最低保証金利(年率05%)
  • 元本が保証されている
  • その時の市場状況に合わせて金利を自動的に変動してくれる
  • 物価が上昇しても金利が上がって安心(インフレ対応)

 

劣後債(れつごさい)という債券もあります。

劣後債とは、債券の発行体が破綻した際に、名前のとおり、劣後債の保有者に対する債務の弁済順位が低い債券で、優先債務のすべてが支払われるまでは、劣後債に対する分配が行われない仕組みとなっています。

投資家はその発行体の破綻時には高いリスクを負いますが、その分一般債券と比較して高い利率を得ることができるようになっています。

 

今後の市場金利次第ですが市場金利が上昇すると安定運用できる日本債券は投資対象として魅力があります。

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