2020年9月
中高年の方に自分が持っている一番大きな財産は何ですかと聞きますと、「自宅」と回答されると思います。
(一番大きな財産は自分の信用とか友人とか家族と回答されたい方もおられるでしょうが)
これまでは自宅を遺産とすることが多かったのですが、結婚年齢の高齢化に伴う教育費用の晩年化や年金受給額の減少等で老後資金が不足するようになり、自宅を有効に使って老後資金を調達する人が増えています。
老後資金が不足している時に、自宅を担保にすることで大きな資金を比較的低い金利で借りることができる不動産担保ローンを使うことを検討してみては如何でしょうか。
不動産担保ローンは従来からありますが、近年は住宅ローン返済中でも借りられるなど柔軟になりましたし、借入金利も複数の銀行を比較することでより低い金利を選ぶことも可能になります。
とはいえ不動産担保ローンの場合は、金利に加えて元金も返済するため月々の返済額が大きくなりますから、返済額が少なくなる「リバースモーゲージ」、自宅を売却し売却代金を受取りながら当該自宅を賃貸する「リースバック」など新しい商品も含めて老後資金の調達を考えたいと思います。
最初に申し上げたいのは、どのような制度を利用する場合にも複数の会社を比較して条件を確認することです。
お金が必要な時に、複数の会社を比較するのは精神的に疲れますが、不動産関連は金額が大きいため金利・各種手数料・不動産査定額など、条件によって負担が大きく変わります。
各制度の一般的特徴一覧表(正確な条件は取扱金融機関毎に相違します)
比較項目 | 不動産担保ローン | リ・バース60 | リバースモーゲージ | リースバック |
仕組み | 不動産(自宅)を担保にし、融資枠内で融資を受ける | 不動産(自宅)を担保にし、融資枠内で融資を受ける | 不動産(自宅)を担保にし、融資枠内で融資を受ける | 自宅を売却し、売却代金を受け取る |
住宅金融支援機構と提携 | 金融機関独自で行うもの | |||
返済 | 返済金額大=元金+利息 | 返済金額小=利息のみ | 返済金額小=利息のみ
(融資枠内で、毎月一定額または随時受け取りなど) |
売却と同時に賃貸借契約を締結し、毎月家賃を支払う。(賃貸借の種類は定期借家が多い) |
対象物件 | 一戸建て・マンション・事務所・店舗など | 一戸建て(マンションは不可の場合もある) | 一戸建て(マンションは不可の場合もある) | 一戸建て・マンション・事務所・店舗など |
所有権 | そのまま | そのまま | そのまま | 買取会社 |
資金使途 | 自由 | 制限有り | 原則として自由 | 自由 |
年齢 | 制限なし | 制限あり | 制限あり | 制限なし |
収入 | 審査 | 制限あり | 制限あり | 制限なし |
固定資産税の納税義務 | あり | あり | あり | なし |
家・土地の大幅下落 | 借入金返済又は追加担保 | ノン・リコース制度有り | 融資枠減少・利息金利上昇
条件変更をしないケース有り |
———————- |
契約終了 | 借入元本+利息全額の返済 | 契約終了後(死亡後)に売却か、相続人による一括返済 | 契約終了後(死亡後)に売却か、相続人による一括返済 | 再度購入することも可能 |
「不動産担保ローン」
ネットで検索すると分かりますが、多くの金融機関が不動産担保ローンを提供しています。
その結果、住宅ローンから乗り換えすることも可能な場合がありますし、資金調達手段として有効な方法と言えます。
公的融資などと比較すると金利は高いかもしれませんが、公的融資は審査が厳しい面や資金使途が限定的であることが多いので、自由度が高いローンを希望している場合は不動産担保ローンの方がおすすめです。
担保にすることができる不動産は、自身が保有している不動産ではなくても、家族や法人が保有している不動産でも担保にすることができるので、双方に問題がない形であれば、自身以外の不動産を担保にして融資を受けることも可能になる場合があります。
「リ・バース60 住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)」
多くの銀行や専門会社が取扱っていますが、借入条件は取扱会社毎に相違します。
満60歳以上向けの住宅ローンで、毎月の支払は利息のみなので負担が少ないです。
元金は、借入者の死亡時に担保物件(住宅および土地)の売却により返済する商品です(相続人の一括返済も可能)。
資金使途に制限があり、住宅の建設、購入、リフォーム、借換えとなっていますので、例えば、老朽化した自宅のリフォームや年金収入だけではローンの返済が苦しいなどの場合に繰り上げ返済の原資として活用するなどが考えられます。
注意点は、担保物件(住宅および土地)の売却代金で返済した後に不足金額が残った場合の取扱いです。
元々融資額は評価額の50%以下などと厳しく査定しているはずですが、長い時間の経過に伴い担保価値が大幅に下落する可能性はあります。
多くの金融機関では「ノンリコース=不足金額の返済は不要」としていますが、契約時には「リコース=不足金額の返済が必要」でないことを確認してください。
融資後、借入者の死亡時に、住宅金融支援機構はあらかじめ取扱金融機関との間で締結した住宅融資保険契約に基づき、金融機関に残元金の全額を保険金として支払うので、金融機関に損失は発生しません。
機構は保険金支払後に担保物件(住宅および土地)の売却などにより回収を行います。
「リバースモーゲージ」(金融機関独自で行うもの)
リバースモーゲージは、不動産担保ローンと同じく住宅を担保に金融機関から借り入れができる制度ですが、元金の返済が債務者死亡後に住宅を売却し一括返済できる制度です。
通常の借り入れの場合は、元金と利息の合計額を返済しますが、リバースモーゲージは、金利の支払いのみであり、資金使途に制限が無いことが多く、老後資金が必要な高齢者に人気の高い金融商品になります。
借入金も一括では無く、設定された融資枠内で毎月定額で受取るなどの場合には、支払利息も小さくなり安心して使えるという面もあります。
但し、将来の資産価値を見越して一定額の融資を行うことから、1年に1回程度の頻度で不動産価値や金利の見直しが実施されることにより、融資枠額が減少するリスクや支払い金利が上昇するリスクがあります。
また、予想よりも長生きしてリバースモーゲージで借り入れした資金を使い切ってしまう長寿化リスクも想定され、この3つを合わせてリバースモーゲージの三大リスクと呼ばれています。
「リースバック」
リースバックとは、自宅などの不動産を専門の不動産会社・リースバック運営会社へ売却し、会社と賃貸借契約を締結することでリース料(家賃)を支払いながら、売却後も同じ家に住み続けることができる制度です。つまり不動産売買と賃貸借契約が一体となった契約のことです。
売却代金は一括で支払われるため、まとまった現金が必要なときにも利用可能です。
自宅に住み続けられるのは、リースバックの大きなメリットですが、他にも、固定資産税や火災保険、地震保険等の支払いが不要となります。
毎月一定の家賃(リース料)を払うことになりますが、自宅を所有している時の費用がなくなり、支払いが定額化されるので、資金計画が立てやすくなります。
デメリットは、
・売却価格が周辺相場よりも安くなりがち
・毎月のリース料(家賃)が周辺の家賃相場よりも高くなることがあります (年間のリース料の目安は、売却価格の8~10%)
なお住み慣れた家に住み続けたい人にとっては、メリットが大きいリースバックですが、オーバーローン状態では利用できません。
オーバーローンとは、住宅ローンの残高が売却価格よりも大きい状態です。
例えば、住宅ローンが2,000万円残っている状態で売却価格が1,500万円だった場合には抵当権の解除ができないため、リースバックを利用することができません。