2022年2月

戦後の第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれたいわゆる「団塊の世代」が75歳を迎える2025年には、75歳以上の後期高齢者人口が、2,180万人になると予測され、さらなる「超高齢社会」に突入します。

そうなると働き盛り世代の多くが仕事と介護の両立に直面するのですが、現行の公的支援制度だけでは両立することが困難であり、2010年頃から介護離職は年間9万人台(正社員)で推移しています。

また働きながら介護をする人は346万人(2017年就業構造基本調査)、40歳から50歳代が6割を占めます。

1月28日の日経新聞には、ハウス食品グループの取り組みが紹介されていましたが、国内グループ社員の1割弱が介護中、3年以内には5割弱が介護に直面する可能性があるとの予測に基づき介護研修を始めているそうです。

研修では、家族の介護がどの程度差し迫っているのかを、親の年齢や家族構成などの情報から診断し、経済的・時間的な負担度を可視化する。

そのうえで仕事と介護の両立や家族との関係、介護費用などについて学ぶとのこと。

またゴールドマン・サックス日本法人では全社員を対象に、家族1人あたり年間100時間までの介護サービス費用を全額負担しているとのこと。

 

このような制度が無い場合には、個人として、どのように対応すればよいのか。

介護は、いつから必要になるのか分かりませんし、どの程度の介護が必要なのかも個々人で違います。

そこで先ずは、かかりつけ医を決めることをお勧めします。

同居している場合には日常の行動で気付くこともありますが、別居している親や親族の認知症に気づかず、徘徊等で警察に保護され連絡があってから認知症と分かった場合には、介護の準備をする猶予はありません。

かかりつけ医と連絡が取れる状況にしておけば、認知症に限らず健康面でも必要な場合には連絡が貰えるように依頼しておくと安心です。

しかし安心できる、かかりつけ医を探すことができないこともあります。

その場合には、民生委員を紹介して貰います。

民生委員は、社会奉仕の精神をもって地域の福祉向上に取り組むボランティアで、その職務の重要性に基づき、厚生労働大臣からの委嘱を受けて、活動を行っています。

国民すべてが民生委員の相談・支援を受けられるよう、市町村ごとに定数が定められ、現在、約23万人の民生委員・児童委員が全国で活動しています。給与の支給はなく、任期は3年(再任は可)です。

民生委員は、「住民の立場に立った相談・支援者」であり、自らも地域住民の一員として、担当の区域において高齢者や障害者の安否確認や見守りなどを行っています。医療や介護の悩み、失業や経済的困窮による生活上の心配ごとなど、様々な相談に応じます(民生委員・児童委員には守秘義務があり、相談内容の秘密は守られます)。

そして、相談内容に応じて、必要な支援が受けられるよう、行政をはじめ地域の専門機関との「つなぎ役」になっています。

筆者も複数の民生委員を知っていますが、高齢者の自宅訪問や話し相手になるなど地域ならではの活動を地道に行っておられます。

 

介護が必要だと思われる時に、最初に相談するのは、全ての市町村に1か所以上、全国に約5,000設置の(平成30年4月)地域包括支援センター(以下、「センター」)です。

親の居住地を管轄しているセンターで必要なサービスや制度について相談したり、介護予防支援を受けることもできます。

センターの主な業務は①介護予防ケアマネジメント、②総合相談、③権利擁護、④包括的・継続的ケアマネジメント、となっており、専門知識をもった職員が、親や親族が住み慣れた地域で生活できるように介護サービス、介護予防サービス、保険福祉サービス、日常生活支援などの相談に無料で応じてくれます。

次に市町村窓口で要介護認定の申請を行うことにより、要介護認定委員が訪問し面談の上、心身状態がどの程度介護を必要としているかによって要支援1~2、要介護1~5の7段階に判定され、この介護度によって、受けられるサービスや介護保険の支給限度額が変わります。

受けられるサービスの内容を把握した上で、どこで介護するのか、誰が介護するのか、お金はどうするのかを検討します。別居している場合は、親の家で介護するのか、子供の家に親を呼ぶのか、施設を探すのかを決めなければなりませんが、本人の意向を含めて家族で十分に話し合いをして揉めないようにすることが必要です。

とはいえ、介護が必要だから相談しているにも係わらず、介護が必要ないと自分勝手に主張したり、誰も介護を引き受けなかったり、揉めることは多いです。

 

要支援1とは、 「要介護認定」の中で、最も軽度な状態を指し日常生活において多少支援が必要な場面がある状態です。

食事やトイレなど日常生活は基本的に一人で行うことができますが、家事や身支度などにおいては多少手助けや見守りが必要だと定められています。

要支援2とは、食事やトイレなど日常生活の基本的なことは一人でできる状態ですが、要支援1よりも身体機能の低下があることが特徴です。

要支援の場合は、基本的に日常的なことは一人でできるのですが、何らかの補助が必要なことが多く、介護予防サービスを利用して(コミュニティサロンや体操教室、デイサービスや訪問介護など)心身の状態を維持・改善して要介護状態になることを未然に防ぐことが大事です。

要介護とは、日常生活における基本的な動作が困難で、介護を必要とする状態のことであり、「介護サービス」が利用できます。訪問介護やショートステイ、施設入所など、介護者の負担軽減につながるサービスが受けられます。介護サービスは、介護保険により原則1割(所得に応じて2〜3割)の自己負担額で利用が可能で要介護度によって介護保険の支給限度額が決められています。

要介護で施設に入居となれば介護は専門家に任せて、本人の預貯金に加え働くことで金銭的負担を解決することになり、分かりやすい方法ですが、介護の期限や金額は千差万別であり、余裕を考慮して施設を選ぶことが大事です。

住宅ローンは長期であっても期限、支払い金額が決まっていますが、介護では要介護度が進むことにより支払い金額が増えたり、施設を変更しなければならない場合もあります。平均余命が長くなるにつれて介護期間も長期化しており、10年以上も12.5%(生命保険文化センター)となっています。

要介護で自宅介護となれば、試行錯誤の連続で、工夫しながら介護と自分たちの仕事・生活を両立させる方法を探すことになります。

 

この場合に必要なのは、

1.本人が介護が必要であることを認識すること、又は、本人に我慢する意識があること。

介護が必要であるにも係わらず、これまで通りに生活したいと本人が思えば介護者の負担は大きくなり、介護しながら働くことは難しくなります。

2.介護サービスの利用

働きながら介護をするには介護サービスが必要不可欠であり、介護サービスを利用する場合は、ケアマネージャーとの相談が必要です。

ケアマネージャーの正式名称は「介護支援専門員」、介護保険法に規定された専 門職であり、要介護認定を受けた人が適切な介護サービスを利用するために、「介護サービス計画書(ケアプラン)」を作成し、市区町村や実際に介護サービスを提供する事業者との連絡や調整を行い、介護サービスをマネジメントします。

また身体的な理由で介護は必要なものの呆けていない場合と、認知症等(精神的障害含む)で呆けている場合は、介護負担は大きく変わります。

例えば、通所介護(デイサービス)では、施設に日帰りで通い、食事や入浴、レクリ エーションやリハビリなどのサービスを受けることができますが、送迎時間が決まっていますから、その時間まで一人で家にいることは出来るのか、徘徊するようであれば、送迎時間に合わせて見守りが必要になりますし、通所介護へ行くことを嫌がるようであれば一日中面倒を見ることになります。

また訪問介護という制度があり、ヘルパー(訪問介護員)が家に来て面倒を見てくれますが、ヘルパーにはできないこと(やってはいけないこと)が介護保険制度によって決められています。

ヘルパーは利用者本人を対象とした「日常生活を送るために必要な援助」しか対応することはできませんから、酒やタバコなど嗜好品の買い出しや本人以外の買い物など、日常生活を送るのに特に支障がないと判断される行為は行うことができません。

ヘルパーが生活援助を行えるのは、利用者が一人暮らしの場合、利用者の家族等が障がいや疾病を持っている場合、家族等に障がいや疾病がなくてもその他やむをえない事情によって家事が困難な場合です。

訪問介護の対象となるとヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴介助、掃除や洗濯などの家事、通院時の付き添いなどを行いますが、要介護度で所定時間が定められており、所定時間以外を一人で過ごすことになります。

例えば排泄に手伝いが必要であれば、誰が手伝うのか又は歩行器(レンタル可能)を使えばトイレへ行くことができ自分で始末することができるのか。

個々人で状況は違いますが、住居の改築や補助器具などを使うことも検討する必要があります。

3.家族全員で負担を分かち合うことを前提にメインで介護する人を支えること。

介護を実際にやってみると分かりますが、例えば訪問介護であっても、病院での受信待ち時間の付き添いは含まれていないため付き添いが必要ですし、ペットの世話は出来ないのでペットがいる場合は誰かが面倒を見る必要があります。

一言で言えば「介護は大変」ということになり、働きながら介護するには、家族全員の協力が必要ですが、核家族化が進んでおり、夫婦で親の面倒を見る、夫婦間で配偶者の面倒を見るなど、一人又は二人だけで介護する場合には時短勤務等の制度が必要です。

仕事で実際の介護はできないにしても、情報収集、連絡係り、申請手続き、買物、金銭的援助など介護者をサポートすることはできます。

介護サービスを利用するにしてもお金が必要なので、働きながら介護するのですが、仕事と介護の両立は厳しく、介護者が介護に疲れて離職したことにより貧困に陥っている家庭も少なくありません。(再就職も難しい)

4.介護をしない人が介護に口を出さない(介護が必要になった時点で話し合いが必要)

一般論ですが、介護を経験していない人は勝手なことを言います。介護に係わらない本人の兄弟や子供など親族が口を出してくると面倒ですし、介護者の負担が増すだけです。

 

実際に介護が始まると、手探りであり、ここに記載したようにはできないのですが、何が必要なのか予め知っておくことでできることもあります。

介護は誰かに押し付けるものではなく、皆で支えあうものだという前向きな考えかたで、取り組んで頂きたいと思います。

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