2021年5月

夫死亡後の生活

 

夫婦二人の老後生活についての記事は多いのですが、令和元年の簡易生命表はでは女性87.45歳、男性81.41歳と6年も長く、しかも70歳の女性の平均余命は約20年となっていますから90歳まで生きることを前提に夫死亡後対策を検討することは必要だと思われます。(一般論であり障害年金、寡婦年金等については記載していません。)

 

高齢女性の主な収入は自分の老齢年金と遺族年金なので、先ずは年金からご説明します。

年金

  • 老齢基礎年金は、加入年月で年金額が変わりますが、一般的には夫婦が同額であり、配偶者が死亡することで配偶者分は支給されなくなり、自分の分だけが支給されますから、単純に収入は半減します。
  • 厚生年金は、共働きの場合と専業主婦の場合では配偶者死亡後の取扱が変わりますが、特に共働きの場合には、収入が大幅に減るので注意が必要です。

専業主婦の場合には、夫には厚生年金があるものの妻にはありませんが、夫死亡時には、夫に支給されていた老齢厚生年金額の報酬比例部分の4分の3が遺族厚生年金として支給されます。

共働き夫婦の一方が死亡した場合も同様に遺族厚生年金はありますが、この場合には自分の老齢厚生年金との比較が必要になります。

死亡した配偶者の老齢厚生年金額の報酬比例部分の4分の3=遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金を比較して自分の老齢厚生年金の方が多い場合には、遺族厚生年金は支給されません。

遺族厚生年金の方が多い場合は、自分の老齢厚生年金分は支給停止となり、差額分のみが支給対象となり、自分の老齢厚生年金+差額分が支給されます。

例:遺族厚生年金が120万円/年、自分の老齢厚生年金が100万円/年の場合

120万円-100万円=20万円が差額

自分の老齢厚生年金100万円+差額20万円=120万円/年の支給

例:遺族厚生年金が100万円/年、自分の老齢厚生年金が120万円/年の場合

自分の老齢厚生年金120万円の支給/年

つまり共働きの場合には、配偶者分の老齢厚生年金が全額減少するケースもあり得るということです。

 

このような記載ではイメージが湧かないでしょうから、具体的な金額を示します。

  • 夫が働き、妻は専業主婦で、夫婦存命中の場合

令和2年度(日本年金機構)

夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額=220,724円

老齢基礎年金 男性58,775円、女性53,342円/月

(平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況:厚生労働省)

厚生年金額は220,724円-(58,775円+53,342円)=108,607円

 

夫死亡後は夫の老齢厚生年金の約3/4が遺族厚生年金として支給されるので

108,607×3/4=約8万円+老齢基礎年金53,342円=約13万円

受給額は約6割に減額となります。

  • 共働き世帯で夫婦存命中の場合

厚生年金額は働いている時の報酬に比例するので、現時点での年金額は男性の方が多くなっています。

厚生年金 男性:163,840円、女性102,558円/月

老齢基礎年金 男性58,775円、女性53,342円/月

合計378,515円/月=約454万円/年ですから余裕ある生活ができます。

(平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況:厚生労働省)

 

夫死亡後の老齢基礎年金及び遺族厚生年金については、前述の通りですが、妻の老齢厚生年金額が夫よりも多い場合には、次の選択肢もあります。

  • 夫の老齢厚生年金額の3/4
  • 夫の老齢厚生年金額の2/1+妻の老齢厚生年金額の1/2

上記①又は②のいずれか多い額

  • 遺族厚生年金の金額は、夫の「老齢厚生年金の報酬比例部分」がわかれば概算できますが、難しい場合は年金事務所で確認できますので、年金相談を受けることをお勧めします。

 

夫の死亡後に必要な生活費

  • 総務省統計局の「2019年家計調査」によれば、60歳以上の単身者の平均支出は151,800円/月となっていますから約2万円の不足となりますので

2万円×12月×約10年=240万円を調達することを考えます。

 

補足

なお、統計調査の数値に納得できない方も多いと想像しています。

前述の年金額とか高齢家庭の平均貯蓄額1,635万円(金融広報中央委員会 令和元年)と聞くと、自分の貯蓄額と大きく相違する場合が多いです。

平均値なので、一つの数値が大きかったり小さかったりすると平均値に影響を与えますので、もうひとつ別の指数として「中央値」も紹介します。

中央値とは、数値を小さいものから順番に並べた時に、真ん中にくる数値で、こちらの方が実態に近いと思われます。

60代の平均値1,635万円に対して中央値は650万円です。

また貯蓄ゼロの世帯も1割強あります。

一方、支出についても平均支出では、実感が湧かない方も多いかと思います。

実際にFP相談を受けていますと、家計簿は付けているものの年間総額が分からないというケースは多いです。

先ずは夫婦の年間支出額を把握して、節約してもその年間支出額の約7割がリタイア後の生活費とすれば良いかと思います。

 

  • 貯蓄額が豊富であれば問題ありませんし、例えば持ち家があれば、当社P.昨年9月に「自宅を使って老後資金調達」に記載しましたように「リバースモーゲージ」や「リースバック」の活用が考えられます。
  • しかし既に中高年で、これから貯蓄するのも難しいし、資産も無い場合には、保険を活用することをお勧めします。

 

保険

  • 保険は大別すると①死亡保険、②医療保険、③介護保険、④死亡保障付の生存保険がありますが、ここでは①死亡保険(特約無し掛け捨て型)が対象です。

特約無し掛け捨て型死亡保険は保険料が他の保険と比較して低額なので、家計費を見直す際にも必要経費として残すケースが多くあります。

  • 死亡保険は、保険契約者が夫で、夫の死亡保険=被保険者であり、保険料支払い者は夫、死亡保険金の受取は妻です。

夫が保険料を支払うことにより夫は所得控除を受けることができます。収入が年金だけであっても税金(非課税枠を超えた場合)や社会保険料は支払う義務がありますから、生命保険料の所得控除は有効です。

また夫死亡時には相続とは関係なく直ぐに保険金を受け取ることが出来ますから生活費として使えますし、更に相続における生命保険金の非課税枠が適用されます。

  • 相続における生命保険金の非課税枠は、相続人1人当たり500万円ですから、妻だけでなく子供が複数いれば、例えば妻と子供2人であれば500万円×3=

1,500万円が非課税となりますから妻が全額を受取れば十分な生活費となります。

  • 注意して頂きたいのは、保険加入時にあまり考えないで「保険料負担者(夫)と保険金受取人(夫)が同じ人で妻が亡くなったら、夫が保険金を受け取る」という保険になっていることがあります。

妻の長生きを祝って夫婦で旅行へ行くなどの目的で保険を契約するだけの余裕があるのなら、このような保険も良いのですが、夫は満期保険金を一時所得として、確定申告する必要があり、満期保険金から必要経費として払い込んだ保険料を引き、「特別控除50万円を引いて、2分の1」にした残金に対して税金がかかります。

 

補足2

前述の通り、遺族年金については見直しが必要と思われます。

夫が働き、妻が専業主婦であっても、夫が支払う年金保険料は、「夫婦で共同して負担したもの」として扱いますから、世帯収入が同じであれば、共働き世帯でも片働き世帯でも保険料も年金額も同じとなっていますが、配偶者の死後については片働き世帯が優遇されています。

夫が死亡しても生活費は夫婦2人とも存命の時の半分までは減らないので、夫の死亡後も約6割強の年金が支給されるよう制度が作られていますが、夫婦2人の収入がほぼ同程度の世帯には適用されません。

現在年金を受給しているのは、男女雇用機会均等法(1986年)の施行前に社会人になった世代であり、収入が同程度の夫婦は数が少なく、まだ問題は顕在化していないかもしれませんが、男女の賃金格差は縮まっており、収入が同程度の夫婦が珍しくない今の現役世代が年金受給者となる頃までには、遺族年金のあり方を見直すべきだと思われます。

 

なお、こちらでは理解しやすいように簡単な事例のみを記載していますから、個別事例につきましては日本年金機構ホームページを参照する、又は年金相談を受けて下さい。

また自営業の場合には、厚生年金はありませんから、更なる対策が必要となります。

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