2023年4月
資産形成とは何でしょうか?
例えば、相続で億円単位の預貯金がある場合や、相当額の不動産収入がある場合、自分と配偶者が70歳代となり、これまでの預貯金等と併せて年金受給により生活を維持できる場合なども、資産形成など考える必要はありません。
また20年以上継続したデフレ下では、先進諸国内でも下位に位置する日本の所得水準であっても物価が上がらないのですから預貯金が目減りすることなく、資産形成を考える必要がなかったのも事実です。
しかし多くの人は働いて収入を得て生活しながら老後を見据えてお金を貯めるのですが、超低金利の預貯金だけでは、昨今の諸物価高騰や年金受給額を考えると老後資金が不足する可能性が高く、預貯金以外に、株式や投資信託、債券などを組み合わせたインフレに対応可能な資産形成が必要ですし、必要だと考える人は増えていると思います。
インフレに対応可能な資産形成とは、預貯金のように価値が変動しないものではなく、株式や投資信託のように価値が変動するものも含めるので、これを投資という場合もあります。(預貯金であっても、昨今の円安で相対的に価値は下落していますが)
では、どのようにして資産形成をおこなうのか。
最適な方法は、日本FP協会所属のFPと相談して家族構成や将来の希望を含めたライフプランに沿った資金計画を作成しゴールを定めて計画的に実行することですが、ここでは一般論を記載します。
価値が変動するものを保有するのですから、最初のポイントは保有したいもの=金融商品の商品特性を理解することです。
昨年4月から高校家庭科で株式や投資信託を活用した資産形成に関する学習が必修になり、家計の収支バランスをどう保つのか、社会保険と民間保険の違い、単利運用と複利運用の違い、株式、債券、投資信託等の商品知識まで幅広いものとなっていますが、社会人への資産形成教育は普及しているとは言えない状況です。
例えば、多くの企業で導入している退職金制度の一つに確定拠出年金制度があります。
確定拠出年金制度は、拠出した掛金を個々の加入者が投資信託、預金、保険等の運用商品を選んで運用し、その運用結果に基づく資産を年金として老後に受け取る制度です。
老後までの間の運用結果が将来の給付額に影響するため、個々の加入者が適切な資産運用を行うための情報や知識を有していることが重要なので、事業主や制度を運営している国民年金基金連合会に対して、いわゆる「投資教育」を行う義務を定めており、制度への加入時はもちろん、加入後においても継続的に加入者等が資産運用について十分理解できるよう、必要かつ適切な投資教育を提供する必要があると定めていますが、実際の実施状況では、確定拠出年金の加入事業者の4割程度の事業者では実施されていないようです。(NPO法人DC・iDeCo協会)
2番目のポイントは制度の活用です:NISA制度、iDeCo(個人型確定拠出年金)の2つがお勧めです。
NISA制度は来年改正されます。(現行との比較は煩雑になりますので、改正点のみ)
・非課税保有期間の無期限化
・口座開設期間の恒久化
・つみたて投資枠と、成長投資枠の併用が可能
・年間投資枠の拡大(つみたて投資枠:年間120万円、成長投資枠:年間240万円、合計最大年間360万円まで投資が可能。)
・非課税保有限度額は、全体で1,800万円。(成長投資枠は、1,200万円。また、枠の再利用が可能。)
現時点のつみたてNISAの投資枠年間40万円で期間20年でしたから最大でも800万円だったので、大幅な改正となりますが月に10万円も積立てることができる人は少ないと思いますし、iDeCoであれば所得税等が減額されるメリットもありますから、双方の制度を比較して上手に使うことが大事になります。
つみたてNISAとiDeCoの比較表
つみたてNISA | iDeCo | |
非課税対象運用益 | 非課税 | 非課税 |
非課税対象掛金 | × | 掛金全額が所得控除(注) |
最低投資額 | 金融機関毎に違います | 5,000円/月 |
投資対象商品 | 株式、投資信託 | 投資信託 |
資金の引出し | いつでも引出し可能 | 原則60歳まで引出不可 |
使い方 | 目的に合わせて積立 | 老後資金 |
注 その年の所得税と翌年の住民税が対象
詳細につきましては、昨年7月に「iDeCo(イデコ)と積立NISAの使い分け」を掲載していますので、そちらを参照して下さい。
3番目のポイントは、資産配分です。
つみたてNISA・iDeCoは、長期投資の有力な手段ですが、長期投資で重要なのは、資産配分の比率の比率です。
資産配分につきましては、昨年9月に掲載していますので、そちらを参照して下さい。
とはいえ、あくまでも金融商品を対象としていますので、今回は人生で最も大きな買い物である「家」について記載します。
家を建てる・買うのか、賃貸のままとするのか、どちらにもメリット・デメリットがあります。
特に賃貸は、老人になると貸してくれないなどと言われていましたが、UR(独立行政法人都市再生機構)の拡大に伴い、そのような心配は少なくなりました。
またUR以外にも家賃の安い市営・公営住宅は各地にあり、希望通りとは言えませんが、高齢者でも賃貸を継続することは可能と言えますから、どちらを選択するにしろ、人生設計の一部として考えることが大事です。
家を建てる・買うのは、子供や家族のため、家賃を払うくらいなら金利が低い今が買い時、資産を持ちたいから、老後の安心のためなど色々な理由があると思いますが、本質的には暮らしを豊かにしたいということだと思います。
長期に渡る住宅ローンを抱えるのですから、人生設計の一部となれば、最低でも平均寿命までを考慮して30年から40年程度の期間で何が起きるのか考えなければなりません。
今は通勤に便利な場所、公園や小中学校に近いなどを重視すると思いますが、子供が成長すれば遠方の高校や大学へ進学する。人事異動により単身赴任となる。又は、家族全員で赴任するため家を賃貸として貸し出す。自分や配偶者に介護が必要になり売却しなければ介護施設へ入れないなど、普通にあることです。
第一に家計に余裕のある住宅ローンであること
住宅ローンの支払いで家計が厳しくなるようであれば、人生は豊かになりませんし、コロナ下で経験したような環境変化で収入が減って、最悪の場合には住宅ローンの滞納で競売にかけられ(競売価格は安いのが通例)、家が無くなったにも係わらず残債の支払い義務のみが残ります。
第二に将来売却できるのか、又は貸し出すことができるのかを考えること。
全国、特に地方では空家が増えており約846万戸(2021年・総務省統計局)となり、首都圏でも空家が増えているにも係わらず、近年の東京ではマンションが大量に供給され、且つ価格も上昇して23区内では平均8千万円となっています。
このような状況が続くはずはありませんし、高値で購入した場合売却しても残債が残るようでは売却する意味がありません。
貸し出しても賃料が住宅ローンの支払額よりも低いのでは、更に固定資産税や修繕積立金なども加わり資産(財布にお金を持ってくるもの)ではなく死産(財布からお金を出すもの)になります。
とはいえ、家を購入することを否定するものではありません。
例えば、中古物件を購入してリフォームする。地価の安い郊外(交通は不便だが病院や学校は近くにある)に家を建て、リモートを活用して月に1回程度の出社であれば、その時だけホテルを利用する。住宅ローン金利の低い金融機関を選ぶ。などの方法が考えられます。
賃貸を選択した場合には、老後も家賃負担がありますから、その分のお金は確保する必要があります。
65歳以上の2人世帯の支出は約22万円/月(総務省2020年)で、この内、住居費は約15,000円となっていますが、賃貸であれば最低でも6万円は必要と考えれば
約20年で約1,400万円が必要となります。(水道・光熱費は、持ち家でも賃貸でも必要なので含めていません。)
1,400万円は住宅ローンと比較すれば少ないのですが、老後収入の範囲内で支出するのですから、必ず確保しておくことです。