2023年6月

老後に必要なのは現金や換金性の高い有価証券

不動産経済研究所(東京・新宿)が4月18日に発表した2022年度の新築マンションの平均価格は、東京23区で21年度から17.2%上昇して9,899万円です。

これは1990年度以降で過去最高を更新しており、低金利で富裕層を中心に需要は強く、用地取得費などの上昇分を価格に反映しやすい状況が続いているからですが、神奈川、埼玉、千葉を含めた首都圏の平均価格も8.6%上昇し6,907万円となっています。

このような状況で35年ローンを組んでマンションを購入するのは危険です。

老後破綻する人の多くは定年退職時にローン残高が多く、例えば、40代半ばで35年ローンを組んで65歳で定年退職の場合には、約10年の支払いが残っています。

また退職金の多くをローン残債の支払いに充当すると老後資金が不足します。

実際に60歳代の貯蓄額では、1,000万円未満が54.2%(プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命保険株式会社「2023年の還暦人(かんれきびと)に関する調査」)となっており、更に、300万円未満が38.2%ですから、明らかに不足しており、定年後も働く人の割合は年々増加しています。

定年後も働くことに関しては、本年1月に「老後も稼ぐ」というコラムを掲載していますので、そちらを参照して頂くとして、今回は支出の見直しを提案します。

 

人生で大きな買い物は「家」です。

支出面では「教育費」が大きくなる場合もありますが、私立に拘った場合であり、国公立であれば一人約1,000万円と言われており、塾代や留学費用などの、その他経費を沢山使わなければ生まれた時から計画的に貯めることができます。

また子供の成績次第では給付型奨学金も拡充されています。

現時点の大学の定員総数は約60万人。

2022年生まれは約85万人で大学進学率50%強なので、2040年の進学数は約40万人と推計され20万人もの定員枠が余り、余る大学「240校」と日経新聞1面に掲載されている状況で無理に教育費を捻出する必要はありません。

老後の住まいに関しては本年2月に掲載していますが、その前に、支出の見直し=過大なローンを抱えて家を持つことの是非を考えるべきです。

遺産等で資金に余裕がある場合には、立派な家を持つこともできますが、その場合でも維持費も含めた資金計画が必要です。

大きな家になれば10年単位での外壁塗装(屋根を含む)だけでも数百万円(約120平米:2階建ての場合で約200万円)が必要ですし、持っていたとしても「子供が成長して出て行き使わない部屋がある」「病気や認知症などで施設へ入る」ような事態となれば、家は資産ではなく維持費の必要な負債となります。

家を買うことを否定しているのではありません。

家を持つことによる家族の幸せや老後も住む場所がる安心感は大事です。

考えなければならないのは収入と比較して適正な住宅ローンであること。

例えば築年数が経過した家を購入して購入費用を抑え、その後、資金に余裕があるときに少しづつリフォームする。(空き家は増加傾向です)

リモートワーク主体であれば、地価の安い郊外に取得する。

会社が非課税範囲内通勤定期代(15万円/月)を負担するのであれば、都内勤務であっても宇都宮-東京、高崎-東京間(乗車時間1時間弱)の新幹線3カ月定期代は30万円未満であり、宇都宮や高崎よりも東京に近い、本庄早稲田や小山などであれば更に選択肢は広がります。

次に考えられるのは、保険の見直しです。

保険は大事なものであり、自分ではどうにもならない経済的な問題が起こった時にそれを解決してくれるものです。

具体的には、対人賠償自動車保険、火災保険(地震保険含む)等は、必要経費と割り切って入るべきです。

大事なことは、万が一の場合に、自分の蓄えでは到底まかなえないことが有りえることです。これが保険の一番重要な部分です。自分の蓄えでは無理と言えるほどの巨額の負担があるからこそ、みんなが少しずつお金を出し合い、不幸にしてそんな事態に遭遇した人にそのお金を回してあげることが、保険の相互扶助の考え方であり、だからこそ、必要経費として負担すべきです。

例えば、自動車事故を起こし、相手を死亡させるなどということはめったに起きることではありませんが、もし起きてしまったら、何億円もの賠償金はとても自分の蓄えで払うことは無理でしょう。それに、車を運転している限り、いつこのような人身事故が起きるかはわかりません。だからこそ、車を運転するなら、対人賠償無制限というのは入っておくべき保険と考えます。

大多数の人は、運転していて死亡事故を起こすなどということはありませんから、年間数万円の保険料で何億円もの賠償金をまかなうことができるのです。これこそが保険の意味であり、重要な役割です。

しかし車両保険の場合はどうでしょう?

車両保険というのは自損事故に対する補償ですが、車庫入れする時に擦ったとか、駐車場の縁石にぶつけたりすることはよくあります。よく起きるからこそ、保険料が高いので、中古車を買ったら車両保険には入らないという人も結構います。

では生命保険は必要でしょうか?

生命保険は、稼ぐ人が死亡した時に残された遺族の生活保障に役立ちますが、独身で扶養者がいない人などには不要です。

定年退職し子供は独立しているが、配偶者の老後が心配な場合には、「遺族年金がいくらぐらいもらえるのか?」、会社員であれば「勤めている会社に遺族補償や弔慰金といった制度がないか?」といったことを調べ、いくらぐらいの金額が受け取れるかを把握した上で、足りない分だけ掛け捨てで保険料の安い生命保険に入ればいいのです。

但し資産家の場合は、相続税対策として生命保険は有効です。

 

同様に、医療保険に入るかどうかも慎重に考えるべきです。

民間の医療保険は、治療費をまかなうためのものではありません。治療費をまかなうのは公的な医療保険、つまり会社員であれば健康保険組合などであり、自営業の人などは国民健康保険です。

民間の医療保険が対応しているのは、公的な医療保険ではカバーできない部分であり、例えば入院した時の食事代、同じく入院して個室に移る場合の差額ベッド料、そして病院に通うためのタクシー代などで、これらの費用は貯金があれば支払うことができます。

 

また癌の治療費などは高いのですが、公的医療保険には「高額療養費制度」というのがありますから、入院して高額になったとしても自分が負担する治療費はせいぜい10万円程度です。

更に付け加えると大企業や同業種で設立した健康保険組合では、独自の「付加給付」が設けられており、その健康保険組合によって金額は違いますが、自己負担の上限が数万円と定められています。この場合、どんなに医療費がかかっても自分が負担する金額はその金額までですから、民間の医療保険に入る必要はありません。

 

最近では、高度先進医療にお金がかかるので医療保険に入った方がいいという意見も多く聞かれます。

たしかに高度先進医療には公的医療保険が適用されません。

なぜ高度先進医療に公的医療保険が適用されないのか?

それは、その治療の効果が確認されていない実験的なものだからです。十分な効果が見込まれるものであれば、公的医療保険が適用されるはずです。

藁をもつかむ気持ちで、実験的な治療でも試してみたいという気持ちはよく分かりますが、医者によっては、そういう治療を勧めない、あるいはやりたくないという人もいるでしょう。なぜなら失敗する可能性も大きいし、そうなった場合、最悪、医療訴訟ということも考えられるからです。

医者には、高度先進医療には慎重な人が多いのも事実です。

 

保険は大事なものですが、入るべき保険と入る必要のない保険があり、入る必要のない保険料は無駄とは言いませんが、貯蓄した方が賢明です。

日本人は保険が大好きで50歳代、60歳代は年間40万円前後の生命保険料を支払っています。(生命保険に関する全国実態調査2021年度・公益財団法人生命保険文化センター)

保険は、その保険の対象となった事態には機能しますが、その他の場合には何の役にもたちません。

しかし現金なり換金性の高い有価証券を持っていれば何にでも使うことができます。

年間40万円の保険料の半分でも「つみたてNISA」で運用することで、大きなリターンを得る可能性も十分にあります。

昨年12月に「60歳からのつみたてNISA」を掲載していますので、参照してください。

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