2021年8月

本年7月3日日経新聞プラス1(毎週土曜日)に長寿社会でのお金の注意点がまとめてありました。

第1位=介護費用

第2位=老後も支出が減らない

第3位=住居費がかさむ

第4位=住宅ローン問題

第5位=預貯金が足りない

第6位=年金が想定よりも少ない

第7位=高齢者狙う金融商品で失敗

第8位=認知症問題

第9位=リタイアできない

第10位=保険が無駄に

その通りだと納得できる項目が並んでいましたので、第1位の介護については、もう少し詳しく解説します。

 

介護費用

新聞には、介護費用の負担が重い。介護はある日、突然やってくる。ある種の危機管理と考え、お金の準備をしないとパニックになる。

とありましたが、誤解を招く内容だと感じました。

事故や疾病(脳梗塞など)に伴う介護は突然やってきますが、それは介護に限らず突然にやってくるものです。

だからこそ保険に加入したり貯金したりして、突発事象に備えています。

突発事象ではなく、加齢による介護は「ある日突然にはやってきません。」

同居している夫婦や親子で、ある日突然親に介護が必要になるとは考えられませんから、「介護はある日、突然やってくる。」の意味は、別居している高齢の親や親族についてのことだと思います。

 

年代別人口に占める要支援・要介護認定者の割合

75歳から79歳:12.6%

80歳から84歳:27.0%

85歳以上   :59.3%

(厚生労働省「介護給付費等実態統計月報」2020年7月)

平均寿命 男性81.41歳、女性87.45歳(厚生労働省2019年)

要支援・要介護は80歳未満では8人に一人の割合であり、近年では健康寿命という考え方が浸透し、これから団塊世代が後期高齢者になるのですが、まだまだ元気に過ごす方が多いのだと思います。

しかし平均寿命を超えるようになれば、年齢を重ねるごとに身体的・肉体的な機能低下を招き、日常生活を営むことが困難になりますから介護比率は一気に増えます。

元気であっても長生きするだけでお金が必要なのに、介護費用も必要となれば更にお金が必要となりますから、別居している親や親族が80歳を超えた場合には、ある種の危機管理と考え、お金の準備をしておくことが必要です。

また高齢であっても夫婦が健康で配偶者が面倒を見ることができるのであれば良いのですが、配偶者が既に死亡している場合や持病・身体的な問題で面倒を見ることが難しいとなれば、子供が面倒をみることになりますから70歳代から準備しておくべきです。

 

なお、こちらのコラムではなるべく具体的な金額を提示することを意識していますが、介護については一般的な金額を提示することが難しいので未提示となっています。

一つ言えることは、介護は大変ですが逃げることはできませんから、予兆や気配を感じた場合には、早めに取り組むことが大事です。

そもそも介護とは、身体的・肉体的な機能低下により日常生活を営むことが困難になった人を支援することです。

要介護状態区分は、一番軽いものから重いものへ要支援1→要支援2→要介護1→要介護2→要介護3→要介護4→要介護5となっており、要支援1では、介護状態とは認められないが、社会的支援を必要とする状態。食事やトイレは自分でできるが、掃除など日常生活の一部に介助が必要な状態。要介護5では、トイレ、衣服の脱着、食事など生活全般に介助を必要とする。多くの問題行動や理解の低下がみられ「意思の伝達」が困難な状態。とされています。

 

平均余命が長くなるにつれて介護期間も長期化しており、平均で約5年、4年から10年が多く、10年以上も12.5%(生命保険文化センター)となっていますから、それら全てを考慮して準備するのは難しいのですが、先ずは、かかりつけ医を決めることをお勧めします。

別居している親や親族の認知症に気づかず、徘徊等で警察に保護され連絡があってから認知症と分かった場合には、介護の準備をする猶予はありません。

かかりつけ医と連絡が取れる状況にしておけば、認知症に限らず健康面でも必要な場合には連絡が貰えるように依頼しておくと安心です。

 

また実際に介護が必要となった場合に最初に相談するのは、全ての市町村に1か所以上、全国に約5,000設置の(平成30年4月)地域包括支援センター(以下、「センター」)です。

親の居住地を管轄しているセンターで必要なサービスや制度について相談したり、介護予防支援を受けることもできます。

センターの主な業務は①介護予防ケアマネジメント、②総合相談、③権利擁護、④包括的・継続的ケアマネジメント、となっており、専門知識をもった職員が、親や親族が住み慣れた地域で生活できるように介護サービス、介護予防サービス、保険福祉サービス、日常生活支援などの相談に無料で応じてくれます。

 

次に、要介護認定の申請を行う必要がありますが、ここで介護保険について簡略に説明します。

 

介護保険

介護保険は少子高齢化や核家族化にともない、被介護者の介護負担を家族だけで支えるのは難しいので、被介護者の自立を支援したり、介護する側の家族の負担を軽減できるようサポートしたりする制度として、2000年4月に施行されました。

介護を必要とする人が適切なサービスを受けられるように財源を確保し、社会全体で支えあうことを目的としており、①「自立支援」被介護者の自立サポート、②「利用者本位」被介護者が自由に選択することで介護サービスを総合的に受けることができる、③「社会保険方式」納付した保険料に応じてサービスや給付金を受けるという3つの基本で成り立っています。

 

40歳以上になれば自動的に介護保険に加入することになり支払義務が生じます。

65歳以上は、介護が必要と感じた場合には、住居地の市区町村へ要介護認定の申請を行い、支援や介護が必要と認定されれば、原因を問わず公的サービスを受けることができます。(40歳から64歳までは特定疾病等に限定されます)

要介護認定の申請は居住地の市町村の担当窓口(介護保険課、福祉課、高齢者支援課などの名称が使われていますが、これもセンターで確認)で「申請書」「介護保険被保険者証」「身分証明書」等を提出して行います。

申請を行いますと、介護認定調査が開始され、申請者は本当に介護が必要な状態なのか、どの程度の介護が必要なのか等を確認するため介護認定調査員が調査を行い、主治医意見書が重要になります。(このためにも、かかりつけ医を決めておいた方が良いです。)

主治医が不在の場合には、自治体が指定する医師の診察を受けることになります。

介護認定調査や主治医意見書が揃いますと審査判定が行われ、各市町村に設置される介護認定審査会で要介護認定を行い、その結果が通知されます。

その結果は「要支援1・2」「要介護1から5」「非該当」のいずれかであり、非該当と判定された場合には介護保険サービスは利用することができません。

 

要介護(支援)が認定されますと、介護保険被保険者証と介護保険負担割合証が交付され、利用者の負担割合は1割から3割となります。

次に、ケアマネージャー(以下、「ケアマネ」)と契約を結ぶのですが、介護保険サービスを利用する場合にケアマネの役割が大きく、信頼できるケアマネを選ぶことが大事です。とはいえ、初めてのことであり、誰が信頼できるケアマネなのか判断する基準もありませんし、悩むところなので、ここでもセンターに相談すると良いと思います。

直ぐに介護が必要な時に、複数のケアマネと面談して最良の人を選ぶような時間的余裕はありませんが、事務所が家と近い人とか年齢などの基準で選んで貰い、実際に会うことで多少なりとも相性の良し悪しは分かると思います。

もし相性が合わないようであれば、他の人を紹介して貰いましょう。

 

「要介護」と認定された場合は、ケアマネがケアプランを作成します。

「要支援」と認定された場合はセンターで介護予防ケアプランを作成します。

介護保険制度では、介護が必要な人に対し、ケアマネが中心となってケアマネジメントが行われます。ケアマネジメントで重要なのは、介護が必要な人の解決すべき課題や状態に即した「利用者本位の介護サービス」が適切かつ効果的に提供されるように調整を行うことであり、その責任を担っているのがケアマネになり、ケアマネは、介護が必要な人の環境や要望を踏まえ、介護度に合わせて、その限度内でケアプランを作成します。

 

事故や病気でない限り、いきなり要介護5などにはならず徐々に進行するものですから、ケアマネと相談し公的支援や民間サービスを活用しながら介護に慣れることも必要だと思います。

最後に、介護を理由に退職する人が毎年約10万人います(総務省統計局)が、介護を理由に退職した人への退職後の意識調査では、退職して介護に専念することで経済面、精神面、肉体面の負担が減ったという人が全体の2割程度。

逆に負担が増えたという人が、経済面で約75%、精神面で約65%、肉体面で

約57%もいます。

仕事と介護の両立ができないという理由で退職しても、退職後に在職中より大変になっている人が多いのが実情ですから、退職せずに、いかに仕事と介護の両立を円滑にしていくかということを考えて頂きたいです。

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